およねが行く
vol.2
谷川千穂
2_酒屋を継ぐことと、2人の出会い – 酒ブティックおくだ
2023.06.15.
第2回目のゲストは、輪島で酒屋【酒ブティックおくだ】を夫婦で営んでいる奥田圭三(けいぞう)さんと綾里(あやり)さんです。昔から家族ぐるみで仲良くさせていただいているのですが、改めて話をしてみると実は知らないことがたくさんありました。お店のこと、仕事のこと、2人のことなど普段は聞けないお話しをお聞きしました。今回は、全3回でお送りします。
圭三さんは大学卒業後、金沢の老舗の酒蔵「福光屋」に就職し、酒造りから販売まで経験を積んだ後、輪島にUターンして家業を継ぎました。
- およね
- Uターンしたのはいつくらい?
- 圭三
- 10年くらい前かな。
- およね
- きっかけは?
- 圭三
- 酒類免許緩和でスーパーやドラッグストアでもお酒を売るようになったら街の酒屋さんがどんどん閉店していくのを金沢で見ていて。
当時は母親と昔からの従業員さんの2人で切り盛りしていたんだけど、うちもそんな風になるのかなって思った時に、自分は量販店も営業で回ったりしていたから逆に街の酒屋が生き残るようなこともできるんじゃないかなって。
すごく悩んだけど、会社を辞めて家を継ごうと決意した。なんの根拠もないけど、なんかできそうな気がしてね(笑)
- およね
- 根拠のない自信(笑)でも、すごい決断だったと思う。
- 圭三
- 量販店の現場を見ていたから、あちら側にはない商品の取り扱いや提案をして全く別の切り口でやっていけば生き残れると思って。蔵元の中にはきちんとした接客や品質管理のできるお店にしか卸さないところもあって、そういう蔵元と関係性を築いたり。その方がやりがいもあるなと思って。全て自分次第っていうか。
- およね
- 自分がこうしたいと思ったことも、自分の店だったら実現しやすいよね。Uターンして、まずどんなことをしたの?
- 圭三
- 奈良県の梅乃宿酒造が出している柑橘系のリキュールで、「あらごしシリーズ」っていうのがあるんだけど、輪島の酒屋さんも居酒屋さんも取り扱っている所がなくて。これ入れたら、飲食店とのパイプができるんじゃないかなと思って。
- およね
- 元々このお酒は知っていたの?
- 圭三
- 福光屋時代に、そこの蔵元と関西の百貨店に試飲販売に行ったりしていたからその時から存在は知っていた。実家の酒屋を継いだ時には取り扱いさせてくださいってずいぶん前からお願いしていて。
それで卸してもらえるようになった。
- およね
- このお酒美味しいよね。
- 圭三
- 女性はもちろん、若いお酒初心者にもおすすめできるし、自分が取引して入れた最初のお酒だから思い入れはあるね。
で、次はどうしようと思った時に、元同僚のツテで、金沢の酒屋さんを紹介してくれて。そこにはこだわりの酒がいっぱいあるし、店主も面白い人だから、とりあえず行ってみたらどうですかって。
- およね
- 福光屋時代のコネクション、フル活用だね(笑)
- 圭三
- そう(笑)
- 圭三
- それで、その酒屋さんへ行って、輪島で酒屋やっていますって話をしたら最初から快く迎えてくれて。
そこで何種類かお酒を買って帰って、そのあと「何が美味しかった?」って聞かれた時に、「雪の茅舎(ぼうしゃ)」(秋田県・齋彌酒造店)が美味しかったですって答えたら紹介してあげるよって。そこから東京のワインの試飲会にも連れていってくれたりして、ああ、こうやって探していけばいいんだなってことが分かってきて。なんだかんだ周りに助けられてやってこられた。
- およね
- その金沢の酒屋さんも同業者に対してよく紹介してくれたね。
- 圭三
- 本当にお世話になったね。能登と加賀で距離があったのも良かったのかもしれない。
- 綾里
- 販売エリアが違うからね。
- 圭三
- あとは輪島から、酒屋継いで苦労しているやつが来た、みたいな(笑)
- およね
- 困っているから助けてあげよう、みたいなね(笑)
家業を継いで奮闘していた圭三さんでしたが、2019年1月に綾里さんと結婚し、二人三脚での店づくりが始まりました。試行錯誤しながら様々なことにチャレンジしています。
- およね
- 美江ちゃん(第一回「およねが行く」ゲスト)にも聞いたけど、2人の馴れ初めについても聞いていこうと思います(笑)
- 圭三
- 恒例なんや(笑)出会いはマッチングアプリ。
友だちにすすめられて始めたけど、最初はお互い警戒してたね。
- 綾里
- 酒屋さんをやっているって聞いて、フェイスブックで確認して、ちゃんと存在するお店だって分かったから安心して会えた(笑)。
- およね
- 存在するお店(笑)。酒屋かーみたいなことって思った?
- 綾里
- 思った。
- 圭三
- あ、思ったんや。それ初めてきく話(笑)
- 綾里
- それでLINEでやりとりして、私も日本酒好きだったから、お酒の話で盛り上がった。
- 圭三
- 綾里からおすすめの日本酒を聞かれて、さっきの話でも出てきた秋田の「雪の茅舎(ぼうしゃ)」をすすめて。
その流れで雪の茅舎を一緒に飲みましょうってなって、金沢駅の近くの居酒屋で飲んだのが初めて会った日。
- およね
- それで一気に距離が縮まったんだね。
綾里ちゃんは酒屋に嫁ぐことに抵抗はなかった?
- 綾里
- 実家も小規模だけど自営業だったし、そんなに抵抗はなかったかな。
- 圭三
- 俺は商売云々よりも、果たして輪島に来てくれるんかな?って思ってた。
綾里の弟さんが七尾に婿入りしているのもあって、綾里がお義母さんに「あんた、さらに遠いとこ行くんか」って言われてたのはなんとなく覚えてる。
- およね
- 綾里ちゃんは酒屋を継ぐって本当のところどう思った?
- 綾里
- 正直、酒屋を一緒に継ぐことは全然考えていなくて、ハローワーク行って仕事を探していたんだけどなかなかなくて。
そうしている間にリニューアルして、誰か一人店にいないといけなくなって、一番手が空いていたのが私だった(笑)
- およね
- 最初は別々に仕事する予定だったんだね。
- 綾里
- 結婚する前に、こども英会話教室で先生をしていたことがあって。
輪島でやるのもいいかなと思っていたけど、子供が少なくて(笑)
- およね
- 子供もいないし仕事もないか(笑)店を手伝うようになってどう?大変?
- 綾里
- そうだね。お酒はもともと好きだったけどなんの知識もなかったから。
- およね
- どうやって覚えていったの?
- 綾里
- SNSを書き始めたのがきっかけかもしれない。
お酒の紹介をするのになんの知識もないから自分で調べて。最初の頃は一つの投稿を書くのに3〜4時間かかっていたよ。
- およね
- えー!本当!?
- 綾里
- 調べ尽くして書くからそのくらいかかる。教科書みたいな投稿(笑)
- およね
- 確かに綾里ちゃんの投稿、情報量多いなと思う。
- 綾里
- お酒の勉強するための、自分用の教科書を作っている感じ。それで色々覚えたかな。
そうやっているうちにお客さんから長文読んでるよ、とか言われてそれでまたいっぱい書かなきゃ、みたいな(笑)
自分で全部調べて勉強するから自分のものになっていくし、そういう積み重ねでちょっとずつお酒のことを知っていったかな。
- 圭三
- 綾里が来る前は俺がフェイスブックでセンスのない写真をあげるだけ。大したことも書いてなくて(笑)
改装したあたりから綾里がSNSに力を入れ出したのかな。インスタがきっかけで遠方からも来てくれる。すごいよね。
- およね
- 酒屋さんっていっぱいあるけど、SNSで発信している酒屋って少ないと思うよ。
特に能登はね。
- 綾里
- そうだよね。そういうのもあって、情報発信は続けていけたらなと思ってる。
綾里さんのインスタグラムも要チェック!
@sakeboutique_okuda
谷川千穂
(愛称:およね)
金沢から輪島に嫁いだ谷川醸造4代目の嫁。広報の仕事がメイン。
奥田圭三・綾里
1930年創業の酒ブティックおくだを継ぐ4代目夫婦。選りすぐりの酒を国内外から仕入れ、情報発信にも力を入れる。
writer&進行:堂下真紀子 photographer:松田咲香