vol.3

3_ライフワークは郷土料理 – 瀬川しのぶさん

2023.11.16.

第3回目のゲストは谷川醸造のレシピを考案していただいている、フードコーディネーターの瀬川しのぶさんです。元々は会社員として、料理とは無縁の世界で 働いていた瀬川さん。料理の世界へ進むきっかけやこれからやってみたいことなど、色々とお聞きしました。全3回でお送りします。


およね
開業してからフードコーディネーターとして1年半ほどやってきたわけだけど、これからも活動スタイルは変わらない?
瀬川
もちろん!能登に骨をうずめる覚悟でいくよ(笑)
基本的には「能登在住のフードコーディネーター」という感じで能登を中心にやっていけたらな。
およね
Uターンしたきっかけのひとつに能登の郷土料理を追求したいというのがあったけど、そっちの活動はどう?
瀬川
いま、ちょっと面白い動きがあって。
前に私が関わっていたプロジェクトで能登町小木の公民館のお母さんから郷土料理の聞き取りをしてレシピ化したことがあるんだけど、別の公民館でその話をしたら「うちでもやりましょう!」と言ってくれて。
およね
へー!それはうれしいね。
瀬川
そうなの。公民館を順番に回りながら、その地区のお母さんたちが作っている郷土料理をどんどんひろってレシピにしていこうという動きが出てきていて。
およね
その地区ごとに珍しい料理があったりするの?
瀬川
うん、これが面白くて。
小木は、イカの町だからイカ料理があるけれど、同じ能登町でも、宇出津の方ではかつて鯨漁が盛んだったこともあって「鯨のすきやき」とか、鯨の皮を湯引きして酢味噌をかけた「おばゆき」とかがあるよ。
最近では宇出津に近い三波公民館(能登町波並)のレシピ冊子(※)も完成したところ。鯨料理もいくつかレシピにおこしたよ。
※各地区の郷土料理をレシピ化した「つくってみさし たべてみさし」里山里海教育研究所 発行(瀬川さんはレシピ監修)
およね
どんどんシリーズ化してほしい。能登町は地区によって文化も風習もちがうよね。宇出津も、小木も、松波もそれぞれ個性がある。
瀬川
そうだね。
あと、公民館がいいのは、いろんなおばあちゃんの知恵が集まってくるところ。
「私はこう作っているよ」みたいな感じで。皆さん協力してくださるから、アイディアもたくさん出てきて、すごく楽しい。
およね
公民館ならどこにでもあるから、輪島や珠洲でも同じことができそう。
瀬川
そうだね。
各地域でそれぞれ独特なものが見つかりそうな気がする!
およね
あと、能登はお祭りも盛んだけど、ヨバレ(※)の料理も色々あるよね。
※祭りの日に親戚や友人を自宅に招いてごちそうをふるまう能登独自のもてなし文化
瀬川
そうだね。なれ寿司(※)とか。山椒を入れる所もあれば入れない所もあったり、その地区ごとで少しずつちがうみたいだけど。
※塩蔵した魚をお米とともに漬け込んで熟成させた発酵食
およね
でも最近はお店のオードブルを頼んだり、ヨバレの料理をイチから作る家も減ってきているのかもしれないね。
瀬川
それでいいんだと思う。郷土料理って作りやすいものが残っていくから。作りにくくなったものは無くなくなっていくものだと思うし。
およね
昔は当たり前にあったけど、今は手に入りにくい食材もあったりするだろうしね。
瀬川
そうそう。
小木のおばちゃんから聞き取りした時に、自分が思っていた作り方とちがっていて「こんな簡単でいいんですね」と言ったら、「そんなもん、いま採れるわけないし無理やわいね!」って。「いちいちすりこぎ使っとれんし、フードプロセッサーやわ!」とか(笑)
およね
(笑)
瀬川
そういうことがあって、前までは「絶対にこれを使わなきゃ郷土料理じゃない」と思っていたけど、現代に合わせたやり方で形を変えていけばそれが10年後には郷土料理になっていたりするんだろうしね。
およね
変わっていくのが自然というか。
瀬川
活動を通して「時代によって徐々に変化していくのが郷土料理なんだよ」と教えてもらった感じかな。もちろん形を変えずに残していった方がいいものもあるんだろうけど。
およね
そういうものは、写真や文書で残しておくことが大事かもしれないね。
瀬川
今ではもう作られなくなっていても、こういう料理があったというのはきちんと記録しておきたいね。
およね
そういえば、輪島のイワシ寿司も最近見ないよね。
瀬川
昔はよくスーパーで売ってたね!

—— どんな料理なんですか?

およね
味付けしたおからを、酢で〆たイワシのお腹に詰めてある。

—— お寿司とはまた別物なんですね。

瀬川
いわゆる酢飯に具材をのせて握るお寿司と違うけれど、かぶら寿司、大根寿司、なれ寿司(※)などの寿司と名のつく郷土料理は沢山あるね。
(※)かぶら寿司‥‥塩漬けしたかぶら(カブ)にブリをはさみ、麹で漬けた発酵食
大根寿司‥‥身欠ニシンと大根を米と麹でつくる甘酒で漬けた発酵食
およね
新鮮な魚が豊富にとれる土地柄だから、生まれた郷土料理なんだろうね。
瀬川
その土地の風土が反映されるのが郷土料理なんだろうけど、食が多様化している今、あえて作らなくなってきているよね。
その時代はイワシがたくさんあったから自然と作る流れだったんだろうし。
およね
自分のおじいちゃん、おばあちゃんが作っていたという人はいるかも。今80歳から90歳くらいの年齢の人。70代になると、もう分からない気がする。
瀬川
各家庭でも受け継がれなくなってきているよね。二世代、三世代で一緒に住むということがなくなってきているし。
およね
そうかもしれないね。
瀬川
あと、気になっているのが「朴葉(ほうば)飯」。少しリサーチしたことがあるんだけど、朴葉飯ひとつとっても各地域で巻き方や、きな粉の色(緑・黄色)がちがっていたり。
きな粉をご飯の上に置くのか、きな粉とご飯をまぶすのか、塩だけ入れるのか、砂糖も入れるのか、とか。
およね
そんなにちがうものなんだね!
瀬川
朴葉の包み方も、葉の表で包むのか、裏で包むのか、派閥があるみたい(笑)
家庭単位でもちがうのかもしれないし、そういうのを調べたら面白そう。
およね
まだまだやるべきことはたくさんあるね!
瀬川
奥深い世界だから、もっと探求していきたいな。
これからの瀬川さんの活動に乞うご期待!

谷川千穂
(愛称:およね)

金沢から輪島に嫁いだ谷川醸造4代目の嫁。広報の仕事がメイン。

瀬川しのぶ
(セガワレシピ)

能登を中心に活動するフードコーディネーター。谷川醸造の調理料を使ったレシピを監修。

writer&進行:堂下真紀子 photographer:松田咲香


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